器の中に男の生き方を表現する世界にお邪魔して来ました。
料理人を志し、ひとつの重圧でもある『三ツ星』という世界を守り抜く…。
私には想像出来ない『精神力』が伴わなければ出来得ない心境なのでしょう。
『神楽坂 石かわ』
ミシュラン東京三ツ星に選ばれ、その名は全国、いや世界から注目されている存在です。
昨日の定休日、Bee開店以来の長いお付き合いでお世話になっておりますお客様と、待ちに待った『神楽坂 石かわ』さんに伺うその日が遣って参りました。
冷たい雨ではありましたが…、雨に濡れた神楽坂は何処か情緒がありました。
その店構えは至ってシンプルであり、毘沙門天の裏手にひっそりと佇んでいました。

カウンターにお通し頂き、料理人の真剣勝負の世界を拝見しながら頂いて参りました。
先ずは先付けです。
『ナマコとあん肝の宮城産生海苔仕立て生湯葉添え』
ぷりっとしたナマコとあん肝が、丁寧に刻まれたお野菜との食感に合わせ、生海苔と生湯葉の風味に包まれた優しいお味でした。
『鴨肉と長野産朝鮮人参2年物のから揚げ』
パリッと揚げられた香ばしさに包まれ、そして何故かしつこさの無いから揚げです。
国産の朝鮮人参は初めて頂きましたが、思ったほど香りもきつくなく甘味さえ感じました。
お椀
『ホタテとお野菜のお椀』
懐石での楽しみの一つであり、料理人の趣向が一番理解できると思うお椀です。
今まで頂いてきたお椀とは異なり一番衝撃を感じました。
椀種のホタテの柔らかさは完璧であり、しかしながら薬味の多さでした。
お椀を開けた際に広がる御出汁の香りに邪魔をせず、椀種を雲が隠しこむように薬味が覆います。『えっ…?』と声が出そうになりましたが、何故か薬味が邪魔をしません。
出汁の風味を損なわず、薬味を噛んだ際に広がる時間差のある風合いでした。
借景を覗き込むお椀の世界に「ハーモニー」という調和を体験させて頂きました。
『平目のお造り生海苔添え』
平目を口にした際に驚きです。
大概は冷えたお刺身を想像しますが裏切られました。
ねっとりとした旨味と弾力のある歯応えは絶妙な品です。なにしろ素材の旨さを引き出す為に甘味が薄れず口の中で広がる術を実感出来ました。
生海苔は浜名湖産、塩気よりも海苔本来の甘さを表現し、また大葉・茗荷と共に平目を引き立てます。この温度が平目本来の味を表現するのだと頷きました…!
『松葉カニの土佐酢のゼリー添え』
これまた時間差で楽しめる逸品でした。
松葉カニの甘味は格別であり、カニ酢が素材を壊さないように考えていらっしゃるようで脱帽でした。
カニの味わいを楽しんだ後に、ふわっと広がる土佐酢で味を引き締めます。
『キンキと椎茸の焼き物』
絶妙な塩加減であり、カリッと焼き上げた皮の旨味は見事な焼き加減でした。
キンキの素材感をふんだんに押し出していて見事な仕事です。
『牡蠣と白子のかぶら蒸し』
ぷりっとした火の入り具合は牡蠣の旨味を最大限に引き立てます。
白子との相性も良く聖護院大根の風味が絡み合います。この料理には言葉が出ません。「絶品です…!」
『焼き穴子と海老芋の葛引き小鍋仕立て』
穴子の香ばしさに葛引きしたお出汁が絡みます。
ねっとりとした海老芋の旨味が心地良く、つるっとした豆腐とかき菜が引き立てます。
小鍋の中に宇宙が存在する思いでした。
そして杯にお酒が残っているのを察していただき、上質なカラスミを出して下さいました。
いよいよお食事です。
『カラスミと大根のさいの目の釜炊き御飯』
淡く色付いた御飯には、カラスミの風味が香り立ちます。
黄身醤油をかけ、海苔をちらしていただきます。
なんと言う贅沢な釜炊き御飯でしょうか…!ぺろっと二杯平らげました。
『生きてて良かった』と実感できる瞬間です。
デザートは『クリームスープに黒蜜の寒天と柿のラム酒のゼリー添え』
正直言って遣られました…!
計算され尽した逸品です。それぞれの素材が時間差で表現しあい口の中で弾けます。
悔しいくらいに「旨い」に尽きます。
全体を通しての感想は素材の温度が最適でお出し頂き…、熱過ぎず心地良い温度が旨味を引き出すという印象です。
そしてずるい程に素材を熟知なさっていらっしゃいます。
素材ひとつひとつの旨味に加え、食した際の時間差で調和を感じさせる料理の印象を持ちました。
料理を愛し素材を最大限に活かす術を考えぬいた極みの世界です。
さすがミシュラン三ツ星の料理です。
食事が終わり店を後にした気分は、まるで良い映画を観た後のような気分になり…、
表情が穏やかな面持ちになりました。
『気分爽快なお料理です。』
とても勉強になり至福な時間に包まれました。